ヒマラヤでサイクリングしてみたいけれど、高山病になりそうで怖いわ。
どんな対策をとって走りに行きましょうか…。
高地でのサイクリング、不安ですよね。高山病になると
最悪死に至る可能性もあるので、不安はごもっともです。
本記事では、ヒマラヤの5,000m峰を複数回踏破した筆者が、
高山病対策について解説します。
これからヒマラヤ山脈・アンデス山脈(ペルー・ボリビア)・スイスなどの高地で、
サイクリングや登山に行かれる方の参考になれば幸いです!
そもそも高山病とは?
高山病とは、標高が高い場所に行くにつれて、臓器のむくみ、体内の低酸素状態や脱水症状が起こり、これにより体調不良が生じる症状のことを言う。さらに詳しく説明すると、高度の上昇につれて気圧・酸素分圧の低下し、また高所利尿により尿量が増加し血液が濃縮されることにより、臓器のむくみ、体内の低酸素状態や脱水症状が起こるのである。
一般的に高山病の症状は標高2,000m以上で生じると言われているが、老衰などで免疫が低下している場合は標高1,500m以上でも高山病が発症する可能性がある。なお、直近31年間でヒマラヤ山脈で亡くなった日本人は26名にのぼり、一番低い標高は2,827m、年齢は22~72歳となっている。高山病は単に「高山に登ると具合が悪くなること」では決して無く、幅広い世代において命を落とす危険のある症状なのである。
当記事では、「予防するにはどうする?」「早期発見するには?」などの基本的な情報を紹介するので、少しでも皆さんが楽しく旅行をできる手助けになればと思う。
一般的な症状
高山病は3段階のステージで分類される。①山酔い、②高地脳浮膿、③高地肺水膿の3段階だ。
「山酔い」の段階では、頭痛・倦怠感・食欲低下・吐き気など二日酔いに似た症状が起こる。続いて、「高地脳浮膿」では、思考力低下・傾眠・運動失調が起こる。最後に、「高地肺水膿」では、呼吸困難・胸部拘扼感・全身脱力感など(ほぼ瀕死の病態)が起こる。
基本的に「山酔い」のみでは生命に関わる問題にはならないが、①嘔吐・食欲不振、②全身倦怠・脱力、③めまい・立ち眩み、④睡眠の障害、以上4点いずれかの症状が起きた場合はより重篤な高山病の前兆の可能性が高いため、自転車・徒歩で高度を上げることは控えたほうが良い。
旅行前のトレーニング
高地に行く前に、標高2,000m以上の山に登るなどして高地に身体を慣らしておくことは有用だ。
高地の環境がどのようなもので、自身にどのような症状が起こるか前もって体験できるので、現地で慌てずに済むというメリットがある。
実際に私の場合は、ラダックを訪れる1週間前に富士山、2週間前に御荷鉾山(標高約1,500m)、1か月前に志賀高原(標高約2,000m)に赴き、高地順応を図った。
結果、空気の薄さを感じることはあったものの標高5,300m地点でも特に山酔いの症状に悩まされずに済んだので、高地に身体を慣らしておくことはやはり有用だと思われる。
サイクリング中は高山病になりやすい?
高山病は、急激な高度上昇により起こるイメージを持っている方が多いかもしれないが、私の経験的に酸素不足・水分不足によって起きることが大半だと考えている。
例えば、自転車でゆっくり時間をかけてカルドゥン・ラを登ったところKIKは重度の山酔いとなってしまった。だが、車で一気にカルドゥン・ラを登った際は全く高山病の症状は出なかった。
また、山酔いを発症したKIKは普段あまり運動をいていなかったのに対して、山酔いにならなかった私と銀次郎は定期的に運動をおこなっていた。
このことから推測できるのは、(当然といえば当然かもしれないが)高山病は単に高度を上げるだけで起きる症状ではなく、酸素不足(低酸素環境でも耐えうるスポーツ心臓等になっていない)・水分不足(適度に水分を摂っていない)が原因で悪化するということだ。
そのため、これから高地に挑まれる方は、直前に高地順応するのはもちろん、日頃から定期的に運動するよう心掛けた方が良いと思われる。
※参考
ちなみに山酔いとなる人の割合は、3,000mで10%・3,500mで30%・4,000mで50%・4,500mで60%とされている。
高山病の予防策
①ゆっくり高度を上げる
なるべく時間をかけてゆっくり高度を上げて、また疲労を蓄積させないことが高山病に有効とされている。例えば私がラダックを訪れた時の場合、朝9時頃レー(標高3,256m)に到着してから、その日いち日はのんびり市街地観光を楽しんだ。過度な運動は避けて身体に負荷が掛からないよう心掛けた結果、翌日登ったカルドゥン・ラ(標高5,325m)では特に山酔いの症状が起きることは無かった。もちろんこれは後述するダイアモックスも併用した結果ではあるが、高地順応の時間的猶予も設けることも重要だと個人的に思う。
②水分補給
高地に行くと、高所順応の過程として尿量が増え脱水傾向となるが、脱水により高山病の症状が悪化するため、水分補給を十二分にすることが重要だ。また、アルコールは脱水を進行させるため、なるべく飲用は避けた方が良い。脱水の他にも、酔いにより高山病の症状がわかりにくくなってしまうリスクも高まるので注意が必要だ。
③満腹を避ける
満腹状態となると消化管への血流が増加し、結果的に脳などの重要臓器への酸素供給量が低下するため暴食は避けたほうが良い。
④睡眠薬を飲まない
睡眠薬を服用すると、薬の呼吸抑制作用により低酸素血症を増悪させる可能性があるので、これも避けた方が良い。
⑤ダイアモックスの服用
ゆっくり高度を上げる時間がない場合、高山病の予防薬“ダイアモックス(アセタゾラミド)”を服用することが非常に有効だ。この薬を服用することで、脳血流を増加させ脳の低酸素状態を改善すると同時に、呼吸中枢を刺激し血中濃度を増加させるのである。
ただしダイアモックスは万能薬ではなく、全ての高山病の症状に100%効果があるわけではない。使用しても症状が悪化する場合は、直ちに標高を下げる等の処置が必要となるので注意が必要だ。
早期発見するには?
ここでは、高山病の第2ステージ「高地肺水膿」となった場合の発見方法を紹介する。「高地肺水膿」になると運動失調が生じて、真っ直ぐに歩けなくなるなどの運動の障害が見られるようになる。
このような場合「タンデム歩行テスト」と呼ばれるテストを実施し、運動障害が起きていないか確認することをオススメする。やり方は至って簡単で、2~4mの直線を継脚で真っ直ぐ歩行可能かどうかで判断する。もし真っ直ぐ歩けなかった場合は、「高地肺水膿」と判断して直ちに高度を上げるのはやめることをオススメする。
画像引用元:https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=mP3ugR9q1p0
発症してしまった場合
①下山
高山病の治療の中で、よく知られていてかつ最も効果がある対処法が「下山」だ。
天候などの問題ですぐに下山できない場合は、それ以上高度を上げないだけでも十分効果がある。
②酸素
「酸素」の補給についても、あらゆるタイプの高山病に有効だ。
有名な観光地では、救護所や空港、ホテルなどに高山病患者に備えて、酸素を設置しているところもある。ラダックの場合、レー市街地の病院に酸素風呂がある他、バザールで酸素ボンベも売られている。また、これは避けるようにしていただきたいが、インド軍は多くの場合酸素ボンベを携帯しているので、生命に関わる状態であれば懇願してみるのも一つかもしれない。
③薬剤を用いた治療
高山病予防薬として紹介したダイアモックスは、治療にも使うことができる。
内服は、朝夕食後1回1錠を服用する。
(※高山病のステージによっては、ダイアモックスの服用が適切でないケースもあるので
高山病を発症した場合は必ず医師の診察を受けるようにしてください。)
さいごに
今回は、サイクリング・登山における高山病対策という題材でご紹介しました!
わたし自身、ヒマラヤに行く前にネットで探したもののあまり情報が見つからなかったという経緯もあって、今回このような記事を執筆しました。
本記事執筆にあたって、情報はちゃんとした文献から参照するよう配慮しましたが、最新の情報にアップデートされていなかったり、私の曲解が含まれている可能性もあります。
初めて高地に挑戦される方は、必ず医者から説明を受けて対策を練ったうえで挑むようにしてください。それでは!
参考文献
日本旅行医学会「旅行医学質問箱」P.P.95~101
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